ブラック企業基金
なんか、ワタミで過労死自殺した女性の遺族がブラック企業を訴える人を支援する基金を設立するって記事を読んだんだが。同じ筆者の同じ内容を前にも見たと思ったら、Yahoo!ニュース掲載から1ヶ月経って、ハフィントンポストにも掲載されたのか。大人の事情かね。
それはともかく、記事執筆者の中嶋よしふみ氏の言うことは上から目線で鼻につくが、理路整然として説得力はあるが、ひとつ気になる点があった。
■貯金ゼロで次の仕事が決まっていなくても生きていける。
貯金がゼロですぐに仕事が無いと生きていけない、という人には失業保険(雇用保険)がある。自発的な離職は通常支給されるまで3カ月も時間がかかってしまう(これを待機期間と呼ぶ)。これ自体は不正な受給を防ぐためにやむを得ないルールだが、辞めざるを得ない特別な事情があればすぐに支給を受けることは可能だ。それが「特定受給資格者」や「特定理由離職者」と呼ばれる制度だ。
就職してすぐやめたら、失業保険の受給資格満たせないんじゃね。ハロワのページにも、通常は「12か月以上」、「特定受給資格者」か「特定理由離職者」でも例外的に「6か月以上」必要と書いてあるし。
ハローワークインターネットサービス – 失業された方からのご質問(失業後の生活に関する情報)
離職の日以前2年間に、「被保険者期間」が通算して12か月以上あること
ただし、倒産・解雇等により離職した方(「特定受給資格者」又は「特定理由離職者」)については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可
中嶋よしふみ氏はファイナンシャルプランナーで、普段は金持ち相手にしてるから、ハロワに行くのは退職金もらった後に働く気ないのに失業給付受けるような人しか知らないんだろう。まあ、新卒じゃなくて、過去に働いて受給資格満たしてたなら別だけど。
社会保険労務士・鈴木好文
さらに、ブラック企業だと大半がすぐやめるの見越して、最初の数ヶ月は試用期間にして社会保険入れてないとこもあるだろうし。以前の記事で、労働条件を改悪して人件費の節約指南するサイトを紹介したんだが。
この時の社会保険労務士・行政書士鈴木好文氏のサイトは、「現在、このページは閉じられています」になってたのでぐぐってみたら、こんなサイトが見つかったんだけど。
「当事務所は個人の方からの相談にも力を入れている事務所です」って、中小企業の事業主相手に「簡単な社会保険料削減の例」として下記項目を紹介してた社労士が、いったいどういう風の吹き回しなんだろう。
- 標準報酬月額の右端に設定
- 給与を上げて賞与を下げる
- 給与を下げて賞与を上げる
- 保険料を上げずに、昇給させる方法
- 給与大幅アップの場合の保険料抑制方法
- 社員の入・退社が多いケース
- パート従業員を採用する
- 昇給は7月以降にする
- 育児休業者の社会保険料免除
- 4月~6月は残業を控える
- 月末の前日までに退職させる
- 役員報酬を減額する
ちなみに「社員の入・退社が多いケース」では、こんなことも書いてたな。
現在はリンク切れ
社員の入・退社が多いケース – 中小企業のための社会保険料削減サポートサイト2ヶ月以内の雇用契約を結んで、試用期間とする。
健康保険・厚生年金保険では、2ヶ月以内の期間を定めて雇用される者は適用除外となります。そこで、この2ヶ月間を試用期間として、新たに採用した従業員の能力・勤務態度等を判断すればよいのです。
2ヶ月未満の解雇であれば、解雇予告手当として平均賃金の30日分を払う必要はありません。
ただ、解雇予告手当は払わなくてもOKですが、解雇するには「客観的に合理的な理由があり、社会的に解雇が相当であること」という条件が必要です。従って、2ヶ月間の仕事ぶりを見て「この従業員はダメそうだな」と判断したら、2ヶ月で契約を打ち切ればよいのです。契約満了ですので、何ら違法ではありません。逆に、「優秀だな」と判断したら正式に採用すればよいのです。
社労士と言えばこんな人もいたな。
今回の感想
それにしても、ハフポストに掲載するまで1ヶ月あるのに失業保険の件が訂正されてないってことは、誰もそのことに突っ込まなかったんだろうか。それとも、入社2ヶ月でやめても失業保険もらえるように制度改定されてんのかね。
もしかして、亡くなられた森美菜氏は新卒じゃなく中途で失業保険の加入歴があるかもと思ってググったが。真偽の程が定かではない情報しか見つからなかった。
これを信じれば新卒だが、当時の経済情勢と本人の経歴や年齢を考慮すると、上場企業に就職できるラストチャンスだったろうな。少なくとも上から目線で、「貯金ゼロで次の仕事が決まっていなくても生きていける」と軽々しく言えるような状況ではなかったな。
まあ、中嶋氏は記事全体の論調からすると意外なことに「もちろん、入社2カ月で自殺を選ばざるを得なかった娘さんにさっさと辞めていればよかったのに、などというつもりはない」と謙虚に書いてるが。個人的には、それでも自殺する前に出来たことはあったと思うし、さっさと辞めていればよかったとも思うけどね。
侏儒の言葉
芥川龍之介の作品に「侏儒の言葉」ってのがあるんだけど。その中で自殺についてこういう記述があるんだが。
自殺
万人に共通した唯一の感情は死に対する恐怖である。道徳的に自殺の不評判であるのは必ずしも偶然ではないかも知れない。
又
自殺に対するモンテェエヌの弁護は幾多の真理を含んでいる。自殺しないものはしないのではない。自殺することの出来ないのである。
又
死にたければいつでも死ねるからね。
ではためしにやって見給え。
自殺した芥川氏が書いたと思うと感慨深いものがあるな。
そんな訳で、死ぬのはいつでもできるんだから、本当に自殺するつもりの人は最後の最後まで後回しにしたほうがいいんじゃね。それに、人間一度は死ぬもんなんだから、別に死に急がなくてもいいんじゃね(但し、冥府に繋いでおかねばならないような連中は除く)
この作品、青空文庫で無料で読めるので興味ある人は↓
芥川龍之介 侏儒の言葉
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