金持ちは税率70%でもいいVSみんな10%課税がいい
「金持ちは税率70%でもいいVSみんな10%課税がいい: 1時間でわかる格差社会の増税論」という本を読んだんだけど。内容は、金持ち税率70%派のポール・クルーグマンとジョージ・パパンドレウ、みんな10%課税派のニュート・ギングリッチとアーサー・ラッファーのディベートの様子。パパンドレウを除いた3人へのインタビューが収録されている。
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肝心のディベート部分は、双方の意見について深い検証がなされる訳でもなく。お互いが言いたい事を言ってるだけで、なんか討論と言うよりは弁論大会って感じに思えたよ。
以下、読んでみて気になった点をピックアップして感想を書いてみる。
金持ち70%とみんな10%どっちがいい?
まず、金持ち税率70%とみんな10%課税については、どちらかを選ぶとしたらみんな10%かな。金持ち増税派では、金持ちの所得税を上げて税収を最大化する税率は、研究では最低70%という結果が出たらしいが。個人的には上げ過ぎだと思うし。
クルーグマンの意見は、学者先生ならではの机上論に思える。具体性にかけるんだよね。実際、フランスの所得税を75%に上げる提案については、欧州全体で税率の足並み揃えるでもしないと、簡単にルクセンブルクに移住できるから無理だろうと言ってるし。アメリカなら可能とは言ってるが。単独インタビューで、最高税率を適用する所得層について聞かれた時に、「なぜならそこまで税率を上げるのは、政治的に無理だとわかっているからです」とも言ってる。
個人的にクルーグマンの考えは、金持ちは税率70%って自分の理論は正しいから、それが実現できない社会は間違ってるからなんとかしろって事だと読めた。なんせアメリカは、サンディスプリングス市のように、富裕層が貧乏人お断りの自治体を作れちゃうんだから。クルーグマン先生も当然、この事は知ってるだろうし。
サンディスプリングスについては↓
「“独立”する富裕層 ~アメリカ 深まる社会の分断~」を見た感想
みんな10%だけなら反対
とはいっても、現行の所得税を一律10%にするだけなら反対なんだけど。ラッファーの主張するように税制を改革して、日本風に言うなら消費税以外の税金は全部総合課税にまとめて、一切の控除や宗教団体などの非課税特例も撤廃するというなら、一律課税の方が金持ち重課税よりはいいと思う。
ただ、控除とか例外規定を完全に廃止するのには反対かな。ラッファーはそうすれば税の申告する必要もなくなると言ってるけど。日本なら、給与所得や株とかの特定口座なら会社から調書が行くからいいとしても。不動産所得・一時所得・雑所得・事業所得とかも、確定申告なしで税務署が把握できるのか。米国には社会保障番号制度があるけど、日本と違ってサラリーマンでも確定申告しなくちゃならないんだから、事務手続きは相当煩雑だと思うが。控除とかをなくすだけで、本当に税金の申告をしなくて済むんだろうか。
日本の場合、将来的にマイナンバー制度が個人のすべて金融口座情報と紐付けされて、資産状況と金の流れが完全に政府に丸見えになるならともかく。現実的には、どうせ確定申告は必要になるだろう。それでも、控除とかがなくなれば確定申告するにしても、税務署の手間は省けるし、申告書も書けないような奴のために無駄な税金を使って申告会場の説明バイトを雇う必要もなくなるか。それを考えると、控除も一律基礎控除にまとめて、103万円ぐらいにすればいいかもしれん。
もっとも、今の日本だと住民税だけでも10%もあるから、税率について具体的な数字を算出すると、また考えが変わるかもしれん。ちなみに10%はギングリッチが例で挙げた数字。ラッファーは、92年の大統領選の時に計算した12%を出してる。
それと、増税云々言う前に税金を効率的に使えという主張はごもっとも。まずは、無駄な支出をなくしてからだよな。けど、医療費とテレビの価格を比べるのは比較対象を間違ってると思った。
金持ち増税すると国外に逃げる?
仮に、金持ちに増税したらどうなるかの研究結果について、クルーグマンは「確かに上位1%の人々の行動には多少の影響が表れます。一部には税金逃れをする人も出るでしょう」と言ってるが。上位1%の富裕層なら、一部でも影響大きいんじゃね。その中に ビリオネアが含まれてたら、間違いなく経済への打撃になると思うんだけど。
プエルトリコ
前にテレビで見た「新富裕層_ vs.国家~富をめぐる攻防~」って番組では、金持ちがアメリカからプエルトリコに移住してたが。プエルトリコの行政サービスや、医療・福祉・教育とか治安や経済レベルがどれほどかは分からないけど。アメリカから引っ越して満足できる程なのかどうか、ちょっと気になった。それを差し引いても、手元に残る金を考えると、プエルトリコ移住にメリットがあると判断したんだろうな。
シンガポール
仮に日本で所得税の税率をそこまで上げたら、一部の金持ちがシンガポールとかに移住するだろうな。その中には間違いなく、ユニクロの柳井会長やエイベックスの松浦社長も含まれるだろう。
・富裕層の税金は高いか エイベックス・松浦社長の主張 検証すると…
・エイベックス・松浦社長の税制不信 「この国は富裕層に良いことは何もない」
もうすでに、移住してる人もいるみたいだし。日本でマイナンバーが導入されるのは、資産税の前触れとか考える人も、当然検討してるだろう。他にも、シンガポールなら相続税もないし。起業も日本より有利らしいし。
・Nスペ”新富裕層” vs.国家 ~富をめぐる攻防~に出場しました。
・富裕層「シンガポール」に熱い視線 相続税・贈与税ゼロ、治安もいい
金持ちの税率は貧乏人より低い事実
本書ではラッファーが、富裕層の方が貧困層よりも課税される税率が低い事を、バフェットを例に出して述べているが。日本でも同様に、実際の所得と課税所得が著しく違っている人がいるねえ。例えば前述した柳井正氏とか。
他にも、証券税制改正で配当所得が総合課税になる大口株主が「発行済株式の総数等の3%以上」に変更される前に、保有割合を3%未満になるよう売却した稲盛和夫氏とか。
・No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)
・お金持ち「節税」33億円 持ち株減らし 稲盛氏ら250人
・日航未公開株250万株取得 稲盛名誉会長が創業の京セラ 上場で 約45億円の“利益”も
・日航株再上場 名誉会長出身企業など“ぬれ手であわ” 京セラは45億円余
・稲盛和夫氏の節税に見る日本とアメリカの大金持ちの違い 毎日新聞追加版
私が同じ立場でも、むざむざ総合課税で税金がっぽり取られるなら、保有比率3%未満にまで減らしただろうが。それは自分が、モリエールの「人間ぎらい」に出てくるアルセストみたいに、世間体を気にしない男だからであり。社会的地位の高い稲盛和夫氏なら、ノブレスオブリージュたるべきだと思うけど。
自分は正論を言ってるのに世の中に受け入れられないとお嘆きのあなたへ↓
人間ぎらい モリエール (著) 内藤 濯 (翻訳)
「どうせ税金払っても日本政府じゃろくな使い方しないから、節税してその分もっとマシな事に使うぜ」とでも言ってたなら、それはそれで評価できたが。また、日航未公開株のインサイダー批判に反論してるけど。結果的には株の保有比率下げた事で課税逃れになった人に言われると、額面どおりには受け取れないなあ。
今回のまとめ
そんな訳で、金持ちの課税を強化して税収を増やそうとしたって。度が過ぎると金持ちの国外脱出を促すだけだと思う。まあ、重税しても納得のいく税金の使われ方をするとか。政府に7割ピンはねされても、まだ暮らしたいと思わせる魅力的な国ならいいが。金持ち増税派が提言する、低所得者への所得再分配には、金持ちへの直接的なメリットはないからな。まあ、貧乏人が減れば治安はよくなるかもしれんが。高額所得者なら、セキュリティ対策に金かけた方が費用対効果は高いだろう。
だからといって、総合課税で一律10%とかにしても、金持ちが素直に税金を取られるとも思ってないけどね。昔から、税金対策で会社を作る話は日本でもあるし。かといって、チェックを厳しくするとそれだけコストもかかるし。
そう考えると、下手に税制を改正するより。金持ち優遇税制にして、シンガポールやスイス・モナコみたいに、世界中から金持ちを招き入れる方がいいかもしんない。
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