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「税金を払わない巨大企業」を読んだよ -トンデモ本? それとも良書?-

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税金を払わない巨大企業

富岡幸雄著の「税金を払わない巨大企業」を読んだんだけど。筆者は、国税庁で税金を徴収する側にいた後、税金を取られる側の企業の顧問にもなったらしい。そんな税金のスペシャリストが主張する、消費税を増税するより先に利益に応じた税金を払ってない巨大企業から税金を取れ、ということが書いてある。

以下に各章ごとの簡単な内容と、章によっては読んだ感想とかを書いてみる。

第1章 大企業は国に税金を払っていない

日本の法人税の税率は高いように見えるが、大企業が払っている税金は税率よりも低いという指摘。企業の税引前の利益と法人税から割り出した実際の税率を「実行税負担率」として、これが低い大企業35社の例をあげて説明してる。

例えば、「とくにソフトバンクは、2013年3月期の税引前利益が788億8500万円もありながら、法人納付税額がわずかにで500万」とか。ただ、この本読む前にAmazonのレビュー読んだんだけど、本書が例に出してる数字って、グループ企業全部合わせた連結決算じゃなく、持ち株会社の単独決算が半分以上なんだよね。具体的には、税金払ってないベスト10のうち9社は単独決算で、全35社でも18社。

トンデモ本大賞候補ですか, 2014/10/4

ソフトバンクならIRページの決算短信に連結決算が公表されてるので確認したけど。

決算短信(PDF形式:1.26MB/106ページ)

上記PDFファイルによると、税引き前利益が9323367百万円。当期利益が586149百万円。当期利益は税引き後の当期純利益だとすれば、346218百万円の税金を払ってるから、ソフトバンクグループ全体での実行税負担率は約37%

ちなみにユニクロのファーストリテイリングだと2014年8月期の期末決算によると、税引前利益が135470百万円。当期利益が79337百万円。税金は56133百万円なら税率約41.4%。決算の数字だけ見るなら、ファーストリテイリンググループ全体では、実効税率もほぼ法人税ぐらい払ってる。

期末決算

もっとも会長の柳井氏個人は、オランダの資産管理会社に株を譲渡するなど、数億円規模の節税になるような行為をしてるらしいが。

531万株を海外へ売却 ユニクロ柳井社長の「狙い」

それは置いとくとして、本書の例に出された35社ぐらいの大企業なら、持株会社の単独決算だけで判断する意味はないな。

とはいえ、本書のリスト上位35社には、連結決算でランクインしてる下記17社もある。これらの企業については、「税金を払わない巨大企業」と言ってもいいかもね。

オリックス
ANAホールディングス
住友商事
三菱重工業
富士重工業
丸紅
ニコン
日産自動車
サントリーホールディングス
阪急阪神ホールディングス
伊藤忠商事
本田技研工業
キャノン
トヨタ自動車
スズキ
日立製作所
ソニー

また、トヨタは十分な利益があるのに税金を払ってなかった時期すらある。

大企業優遇税制 恩恵たっぷり トヨタ法人税ゼロ円 08~12年度 株主配当は1兆円超■内部留保も積み増し

ちなみに、税金は払っていなかったけど、自民党には献金し続けてたりもする。

法人税払わぬトヨタ 自民には巨額献金継続

第2章 企業エゴむき出しの経済界リーダーたち

ここは精神論。筆者の主張を一言で言うと、大富豪の経営者は私腹を肥やすだけじゃなく、企業の責任を果たせ。

第3章 大企業はどのように法人税を少なくしているか

具体的な節税方法の説明。内容については本書参照。

第4章 日本を棄て世界で大儲けしている巨大企業

第5章 激化する世界税金戦争

この2章は、最近の先進国共通の問題である、世界的な租税回避の流れについて。

第6章 富裕層を優遇する巨大ループホール

金持ちが金持ちたる不労所得が、労働所得に比べて優遇されてる点について。

第7章 消費増税は不況を招く

大雑把に意訳すると、消費増税は大企業や富裕層にはどうってことないが、中小企業やそれ以外の個人には影響が大きいから好ましくない。

第8章 崩壊した法人税制を建て直せ!

現行の税制への苦言と将来の見通し。

今回の感想

本書では、日本の法人税の税率が高いと主張してる割に、ユニクロの柳井会長が世界的な大富豪になれたのは、持ち株会社の実効税率の低さを持ち出して、税率が低かったからだと言ってるが。実際は、巨大企業ファーストリテイリングはグループ企業の頂点に君臨する持ち株会社が子会社・関連企業の利益を吸い上げて、一部の人間の為に富を集中させたのが理由ではないかな。ソフトバンクも同様。

つまり、限られた富裕層だけが富を独占してトリクルダウンが発生しないのは、現行の税制度の不備が原因だからなんとかしろ。それが本書の主張だと思えた。この状態で、仮に法人税を上げたとしても。税金の優遇措置を享受できる業種や、制度の不備を見つけ抜け道を探せる優秀なドリームチームを抱えた大企業なら、痛くも痒くもないだろう。しかも、現実には法人税を下げると言ってるんだからな。

Amazonのレビューでは、巨大企業の子会社・関連会社を除いた単独決算の数字を例にあげてることについて、ぼろくそに書かれてるのが目立つが。確かに、連結決算で評価しないと意味はないと思うけど。その点だけを責め立てるあまり、全体的な内容を評価してない批評が目立ってる。パッと見で客観的に判断してると思えたのは、下記レビューぐらいかな。

大企業が悪いわけではないが, 2014/9/26

少なくとも、実名だしてる17社については、連結決算でも実際に払った税金は法人税率より低くなってるし。本書で書かれている税金逃れの手法が、日本の税制の不備に原因があり、その対策が必要だという意見は間違っていない。トータルで判断するなら良書だと思う。

それなので、「税金を払わない巨大企業」というタイトルはいいとしても、帯でユニクロ・ソフトバンクを全面に出してるのは間違いだな。これは筆者の責任ではなく、おそらく出版社の宣伝担当者の問題じゃね。もし、ユニクロ・ソフトバンクがメインなら、内容とそぐわなくなるがタイトルは「税金を払わない富裕層」とかの方がしっくりくるかな。

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